速く報じることの葛藤

雑記

ゲームライターに復帰して4ヶ月が過ぎ、AUTOMATONさんで執筆した記事の数が70本を超えた。途中しばらく休業していた時期もあったものの、最近は調子がよければ日に2~3本程度のニュース記事をコンスタントに書けるぐらいには体力も戻ってきた。これでもまだまだ遅筆なほうだと認識していて、できれば最低3本をノルマとして課したいところだけど、いざ書き始めてみると袋小路に迷い込んでしまったり当日の体調にペースが左右される部分もあり、そう上手くはいかない。

ゲームメディアでニュース記事を執筆することは、速さとの戦いでもある。“戦い”なんて言うと物々しさも感じられるが、実際そうなのだ。重要な情報、あるいは拡散性が高いと見込まれたトピックをめぐり、最も先に報じられた媒体が多くのインプレッションを手にする形に基本的にはなっている(記事の見出しの付けかたやSNSへの投稿の内容、各誌のアカウントの拡散力によっても変動し得るため一概には言えない)。

こうした構造により、編集者およびライターの面々は必然、情報が発表されてから記事を公開するまでのタイムアタックレースに巻き込まれることとなる。同業のメディアだけでなく、近年は個人が行う情報発信も感度が高くスピードに満ちたものとなっており、こちらも意識しなければならない。そこでのしのぎを削る戦いには今でも時々身を投じる機会がある一方で、どこかゲームに対して粗雑な態度を取ってしまっているような後ろめたさもあり、精神的な疲労や消耗が個人的には大きい。

上記はいわば他者との戦いであるが、速さにおける戦いは自分自身にもおよぶ。あくまで私見となる点には触れておきつつ、メディアで許容されるゲームニュースの鮮度は、トピックが世に放たれてから概ね3日前後であろうという感覚でいる。もちろん速いのに越したことはなく、できれば当日中に記事を公開できるのが望ましい。とはいえ、あまりにも多くの情報が日々生み出されていく状況でどうしても捌き切れず、翌日以降に回していたらまた別の優先すべきニュースが現れ……を繰り返すうちにお蔵入りしてしまうというケースもしばしば発生する。あの作品を紹介したかったなと後悔を抱く局面もあるが、これもやむなしと受け流し、次の原稿に向かってキーボードを打つのも仕事のひとつだ。

しかしながら、そうした流れの中で葛藤にも似た思いを抱くことが少なくない。執筆した記事のSNSへの投稿に寄せられる反応を眺めるのは楽しく、即座に読者からのフィードバックが得られるという点には一定のやりがいを感じてもいる(いつもありがとうの気持ち)。言葉を選ばずに記せば、バズりそうなニュースを迅速に提供し続けることが、各方面から求められているのは否めないだろう。そのようなニーズに対して過剰に適応しようとしていた時期もあったし、そこで培われた思考パターンは現在も脳裏に焼き付いている。

ただ、残してきた記事を振り返り、ふと我に返ることがある。瞬間風速的な情報の発信に身を委ねた結果、バズに支配された悲しき獣の姿がそこにはあった。数年後、数ヶ月後、もっと言えば数日後には風化してしまっているような内容も散見され、自身の怠惰と浅はかさに赤面する思いだ(弁解しておくとこれは過去の仕事の話で、現在お付き合いをさせていただいてる各誌との関係性においては方針を変えているつもり)。ゲームメディアへの風当たりの強さを感じる場面も再び増えてきたように思うが、そうした風潮に加担する振る舞いをしてきた事実には反省も多い。

個々の作品や事象と誠実に向き合い、正しく伝えること(AUTOMATONがメディアポリシーに掲げる「Veracity in Gaming」に近い)を今は自らも目指しているものの、それを実現するのは多くの労力を伴う作業であると痛感している。まだ伝えられていないゲームは数えきれないぐらい存在するし、情報の精度にこだわらずもっと発信の量を増やしたいという欲も正直ある。いったい何に執着しているのかもはや分からず、まとまりに欠ける文章に付き合わせてしまったかもしれないが、どのスタイルを選び取ろうとも後から誇れるような道を歩いて行きたいと思う。

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